「アルツハイマー型認知症」進行を遅らせるアリセプトと抗体治療
脳の情報伝達の仕組み
脳の記憶は、コンピューターのメモリーの仕組みとは全く異なっています。
コンピューターの記憶は、最小単位のビット呼ばれる構造がオン(帯電)かオフ(非帯電)で決まり、これが静的に広がった構造(実際には多重平面の立体)をしていて機械が壊れなければ記憶後失われることはありません(実際には人間よりも短命です)。
コンピューターの記憶や演算装置は、電子回路です。
これに対して人間の記憶はニューロンの結びつきで、電気信号をやりとりするのではなくニューロン細胞の先端にあるシナプスで神経伝達細胞「アセチルコリン」の放出と吸収が行われ記憶が定着します。
このように人間の脳は、電子回路ではなく化学反応装置と言えます。
アルツハイマー病の治療
アルツハイマー病は、「アミロイドβ」と「タウ」というタンパク質のゴミが溜まることからニューロンが死滅することで記憶を失い、思考能力が低下して発症します。
このゴミを除去できれば元の状態に回復はできませんが、アルツハイマー病の進行を遅らせたり停止できるのではと期待されます。
もともと脳内には、ゴミを細胞の外に出す掃除機脳の仕組み(「ミクログリア」など)があり、加齢により掃除機脳の機能が落ちていくことでゴミが溜まりニューロンが死滅して認知症に発展していきます。
この掃除機脳を高めるのが抗体治療です。
「アミロイドβ」と「タウ」と言うゴミが溜まる以外にも、シナプスの信号を伝える神経伝達細胞「アセチルコリン」がその役割を終えた後にゴミとして溜まるようになります。
この治療薬に日本の製薬会社エーザイの開発した「アリセプト」があります。
シナプスの信号機能の衰えを抑える医薬品「アリセプト」
シナプスでの信号伝達は、神経伝達細胞アセチルコリンの放出と吸収で行われます。
「アセチルコリン」を吸収すると信号が伝達されアセチルコリンの役割が終わり、そのままではゴミとして溜まるので、コリンエステラーゼと呼ばれる分解酵素がアセチルコリンを分解します。
1970年台後半の研究の初期段階でアルツハイマー病の患者の脳内でアセチルコリンが減少していることがわかりました。
そこで、エーザイはアセチルコリンを分解するコリンエステラーゼの働きを抑える化合物を研究して認知症の世界で初めての医薬品「アリセプト(化合物はドネペジル)」を商品化しました。
このアリセプトは、アルツハイマー病の進行を9ヶ月から1年程度遅らせることができると言われていますが、対症療法で根本治療とは言えません。
抗体治療
根本治療法は、研究されているところでまだ実現されていません。
現在のところは、ゴミを分解するミクログリアの働きを高めるのが抗体治療の研究です。
抗体には標的となるタンパク質を認識する特徴があり、アミロイドβの抗体は「抗アミロイドβ抗体」です。
抗アミロイドβ抗体はアミロイドβに集まり、集まってくると掃除機脳を持つミクログリアが集まってきます。
この点に注目して、多くの抗体医薬品が研究されていますが、今のところ薬効がまだ認められていないようです。
脳内のゴミの除去を行う根本治療はまだ研究中です。
- 脳の記憶や思考能力は電子回路ではなく化学反応で達成されています
- 化学反応の仕組みがわかるようになり治療薬も出てきています
- まだ進行を遅らせる対象治療の段階にあり、根本治療は見通せていません